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大阪地方裁判所 平成2年(ワ)8770号 判決 1992年8月28日

原告(反訴被告)

木村智恵子

被告

新田昌稔

反訴原告

新田地所株式会社

主文

一  被告は、原告に対し、金五万〇一二〇円及びこれに対する平成二年九月一〇日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告(反訴被告)は、反訴原告に対し、金二三一万〇七六六円及びこれに対する平成二年九月一〇日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求及び反訴原告のその余の反訴請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告と被告との間でこれを五分し、その三を同原告の、その余を被告の負担とし、原告(反訴被告)と反訴原告との間ではこれを四分し、その三を反訴原告の、その余を原告(反訴被告)の負担とする。

五  この判決は一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  本訴

被告は、原告に対し、金一二万〇二四〇円及びこれに対する平成二年九月一〇日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴

原告(反訴被告)は、反訴原告に対し、金八二八万五七〇四円及びこれに対する平成二年九月一〇日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、民法七〇九条に基づく損害賠償請求事件である。

一  争いのない事実

次の交通事故が発生した。

1  日時 平成二年九月一〇日午後三時二〇分頃

2  場所 奈良県生駒市南田原町八一二番地の一先路上

3  事故車<1> 普通乗用自動車(奈良五六ろ五四二四号。以下「原告車」という。)

右運転者 原告

右所有者 原告

4  事故車<2> 普通乗用自動車(なにわ三三ち四三一八号。以下「被告車」という。)

右運転者 被告

右所有者 反訴原告(なお、以下、被告と反訴原告を合せて「被告ら」という。)

5  態様 本件交差点を、直進しようとした被告車と、対向方向から右折進行しようとした原告車が接触したもので、原告に過失がある。

二  争点

1  事故状況並びに被告の過失の有無及び双方の過失割合

(一) 原告の主張

被告は、右折する原告車を認めながら減速せず、対面信号黄色の状態で本件交差点に進入したものであり、本件事故の発生について、被告にも過失がある。

そして、本件事故は、原告車には直近右折の過失もあるので、被告の過失は三割とするのが相当である。

(二) 被告らの主張

本件事故は、対面信号青色にしたがい本件交差点を直進しようとした被告車と、本件交差点を右折しようとした原告車の事故であるが、被告は、直進するに際し、右折しようとする原告車を発見し、クラクシヨンを鳴らし警告したのに、原告がボリユーム一杯にカーステレオをかけていたためこれに気付かず本件事故に至つたものであつて、被告には過失はない。

2  双方の損害額

第三争点に対する判断

一  事故状況などについて

1(一)  証拠(甲一、甲二、甲九、検乙二〇ないし二三、原告及び被告各本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができ、右認定を左右する証拠はない。

(1) 本件事故現場は、国道一六八号線の交差点内である。この交差点は、南北道路と東西道路が交差し、信号機により交通整理がなされている。

車道幅員は、南北道路の本件交差点南側が一五・五メートル、北側が五・二メートル、東西道路の本件交差点東側が一〇メートルである。

本件道路の最高速度は四〇キロメートルに制限されて、本件事故当時の天候は、晴であつた。

(2) 原告は、原告車を運転して、南方から本件交差点に至り、これを東方に右折進行しようとし、被告は、被告車を運転して、北方から本件交差点に至りこれを南方へ直進通過しようとしていた。

そして、原告は、本件交差点南側の<1>で右折合図をして本件交差点に進入し、<3>で一時停止し、同所で<イ>に被告車を発見したがそのまま右折できると考えて右折を継続し、時速約一五キロメートル程度の速度で進行中、<4>で右前部が被告車(<エ>)右側面と衝突し、原告車は<5>に停止した。

一方、被告は、本件交差点北側の<ア>で対面信号青色を確認して、時速約三〇キロメートルで本件交差点に進入し、<イ>で<3>付近で停止中の原告車を認めたが走行を継続し、<ウ>に至つて、原告車が<2>に接近しているのを認めて危険を感じ、急ブレーキをかけたが、<エ>で原告車(<4>)と衝突し、<オ>で停止した。なお、右<イ>から右まで<ウ>の距離は一七・一メートルであるから、その間を時速三〇キロメートルで走行した場合、二秒余りの時間を要することになる。

(3) 本件事故により、原告車は右前角バンパー、ボデイが凹損し、被告車は左側面が擦過凹損した。

(二)  なお、原告は、被告が本件交差点に対面信号黄色の状態で進入したと主張し、原告本人尋問の結果では、<3>で右折信号は見ていないが、直進信号は赤色であつたと供述するが、本件交差点には右折信号は設置されていないこと(甲九・写真番号一、検甲二〇ないし二二)、また、本件事故直後なされた実況見分(甲九)の際、被告は対面信号青色を<ア>で確認したと指示説明しているのに対して、原告の信号状況に関する指示説明は記録されていないこと等から考えて、信用しない。

2  判断

右認定の事実によれば、本件事故の原因の大半が、原告が、<3>において被告車が<イ>に接近していることを認めながら、先に右折できるものと判断したことにあることが明らかである。

しかしながら、被告としても、<イ>において対向方向から右折しようとしている自動車のあることを認めていたのであるし、被告車が<イ>から<ウ>に至るのに二秒余りの時間があつたのだから、被告が、クラクシヨンを鳴らすにとどまらず、その動静をわずかに注意していれば本件事故を回避することが可能であつたということができ、その意味においては、被告の過失責任もまた否定できない。

そこで、右認定事実から認められる双方の過失の内容、程度、衝突場所の道路状況等を考慮すると、被告の過失は一割五分を上回らないものと認めるのが相当である。

二  損害額

1  原告車について

証拠(甲三)及び弁論の全趣旨によれば、原告車の修理費として三〇万〇八〇〇円を要したことを認めることができ、右認定を左右する証拠はない。

2  被告車について

反訴原告は、被告車の修理費として二九六万九九五四円、代車料として平成二年九月一一日から同年一一月一五日まで一日当たり二万五〇〇〇円(消費税別)の割合による一六七万三七五〇円(消費税込み)、保管料として一か月間一日当たり一万円(消費税別)の割合による三〇万九〇〇〇円(消費税込み)、評価損として二八三万三〇〇〇円、弁護士費用として五〇万円の合計八二八万五七〇四円の損害が生じたと主張する。

(一) 修理費について

(1) 経過

証拠(甲二、甲五、甲六)によれば、被告側は、平成二年九月一三日、被告車を修理業者である富士モータースに持ち込み、本件の解決を依頼したこと、原告加入の保険会社から依頼を受けた町井康徳アジヤスターは、同月一四日、富士モータースにおいて、被告車の損傷状況を調査し、その結果、同年一〇月三〇日、修理部品代を消費税別で七八万七七八〇円、修理工賃を消費税別で四四万七〇〇〇円とする報告を原告加入の保険会社に報告したこと、富士モータースは、同年一〇月二日、修理部品代を消費税込みで一七二万八九九九円、修理工賃を消費税込みで一三八万七四一〇円とする見積書を作成し、原告加入の保険会社に送付したこと、反訴原告加入の保険会社から依頼を受けた高崎敏捷アジヤスターは、同月八日及び同年一二月一日、富士モータースにおいて、被告車の損傷状況を調査し、その結果、同年一二月一九日、修理部品代を消費税別で一五四万二四五〇円、修理工賃を消費税別で一三四万一〇〇〇円とする報告(乙一及び乙二の一ないし五・消費税込み合計二九六万九九五四円)を反訴原告加入の保険会社にしたことが認められる。

ところで、本件訴訟において、反訴原告は、反訴原告加入の保険会社から依頼を受けた高崎アジヤスターの調査報告書に基づき修理費を請求し、他方、原告からは、原告加入の保険会社から依頼を受けた町井アジヤスターが、高崎アジヤスターの調査報告書を検討し、その結果として修理費は一六〇万円程度であると記載した書面(甲八)が提出されている。

そこで、以下、検討する。

(2) 損傷状況

高崎アジヤスター作成の見積書(乙一及び乙二の一ないし五)中には、被告車について、左リヤーフエンダーの板金が必要であるとする部分(乙二の三・No.23、以下「三No.23」の例により記載する。)がある。しかしながら、本件事故は、原告車の右前部と被告車の右側面とが衝突することによつて発生した事故であり、その直後、双方車両は交差点内において停止していることは前認定のとおりであるし、被告本人尋問の供述中、本件事故当時、被告車と平走する単車があり、それにすつたのではないかとする部分は曖昧であつて、結局、高崎アジヤスターがいうように障害物と当たつたことを証するに足りる証拠はないから、本件事故による損害とは認められない(右認定により生じる差額は、工賃二万五〇〇〇円である。)。

また、高崎アジヤスター作成の見積書中には、被告車について、フロントホイルハウジングパネル及びダツシユパネルの板金(一No.8No.9)、フードパネル・左右ジヨイント、同左右サポード、同右ガイドローラー、同右ガイドローラーBKTの交換(一No.11ないしNo.14)、右フロントドアアウトサイドハンドル、カバーリングの交換(一No.21及びNo.22)、ライニング部品の交換(二No.18)、センターコムカバリーングの交換(二No.21)、右リヤードア・アウトサイドハンドル、同カバリーング、同ロツク、同ストライカー、同アクチエクターの交換(三No.5ないしNo.9)、同レギユレター、同モーター、同ライニングの交換(三No.19ないしNo.21)、リヤーバンパー・ヒートインシユレター、同リヤー、同リホースメント、同右アブソーバーの交換(四No.5No.6No.8No.10)、フロントウインドシールドフレームの板金(四No.14)、エンジン脱着(四No.21)、フロントサスペンシヨンクロスメンバー、右フロントホイルハブの交換(五No.3No.4)、ヒユーエルタンクの交換(五No.10)が必要であるとしている部分がある。しかしながら、甲五(末尾貼付の写真)、検乙一ないし一九によつて認められる被告車の損傷の程度及び状況や前認定のように本件事故当時における双方車両の速度が時速一五ないし三〇キロメートル程度であつたことから考えても、被告車の損傷が右当該部位に及んでいるとは認められないし、また、そのような部位に損傷が及ぶとも考え難いところ、その損傷の存在を具体的に証する証拠の存しない本件においては、右板金、交換又は脱着が必要であるとする高崎アジヤスターの意見は採用できない(右認定により生じる差額は、部品価格四〇万一九五〇円、工賃一四万三〇〇〇円である。)。

更に、高崎アジヤスター作成の見積書中には、被告車について、フロントダツシユサイドピラーの交換(一No.7)、フードパネルの交換(一No.10)、右サイドセンターフレームの交換(二No.19)が必要である、マイナーパーツ代として二万九〇〇〇円を要する(五No.13)とする部分があるが、前記写真などによつて認められる損傷の程度から考えて、それぞれ、町井アジヤスターのいうような、板金(工賃二万円)、フードパネル調整(工賃三〇〇〇円)、センターピラー板金(工賃八〇〇〇円)及びロツカーパネル部品交換(部品代二万一〇〇〇円、工賃三万五〇〇〇円)の修理を越えるような修理並びに町井アジヤスターのいう三〇〇〇円のマイナーパーツ代を要する修理の必要があつたものとは認められない(右認定により生じる差額は、部品価格一四万九五〇〇円、工賃六万四〇〇〇円である。)。

しかしながら、リヤーバンパーセンターモールの交換(四No.2)については、町井アジヤスター作成の見積書(甲五、二頁No.8)によつても、その必要があるものと認められる。

(3) 工賃について

高崎アジヤスター作成の見積書(乙一及び乙二の一ないし五)中には、被告車のフロントバンパー脱着について一万八〇〇〇円を要するとする部分(一No.1)があるが、町井アジヤスターが甲八でいうような、ボルト四本の取り外し以上の作業の必要性については明らかにされてはいない以上、同アジヤスターのいう六五〇〇円以上の工賃が必要なものとは認められない(右認定により生じる差額は、工賃一万一五〇〇円である。)。

他方、町井アジヤスターは甲八において、高崎アジヤスター作成の見積書(乙一及び乙二の一ないし五)が、甲六の富士モータースの見積書にある工賃などを概ね是認するような形で、リヤーフエンダー板金について二万円を、リヤーランプグループ脱着について一万五〇〇〇円を、インストルメントグループ脱着について五万五〇〇〇円を、フロントシート、リヤシート、トランクトリムなど脱着について三万五〇〇〇円を、右フロントサスペンシヨン脱着オーバーホール右フロントサスペンシヨンクロスメンバー点検について七万五〇〇〇円を要するとしている部分を疑問視しているが、その具体的根拠については明らかにしておらず、町井アジヤスターのいう金額の根拠は明らかでないもので、それによつて、富士モータースの見積よりは控え目に算定されている高崎アジヤスターの見積を左右するには足りない。

また、高崎アジヤスター作成の見積書では、前記のように本件事故によるものとは認められない左リヤードア、リヤーフエンダーをも対象箇所に含めた上で、甲六の富士モータースの見積書と同額の六〇万円を塗装工賃として計上するのに対し、町井アジヤスターは、その費用を一四万円としているが、町井アジヤスターのいう金額の根拠は明らかでなく、高崎アジヤスターの見積を基礎としつつも、その対象箇所から左リヤードア、リヤーフエンダーを除外し、それにかかる工賃として相当と判断される四割を控除した、三六万円を当該費用として認めるのが相当である(右認定により生じる差額は、工賃二四万円である。)。

(4) 以上に検討した以外の各点については、町井証言としても、高崎アジヤスターの見積を必ずしも否定するものではなく、町井証言によつて、右高崎アジヤスターの見積を左右するに足りず、他にこの認定を覆す証拠はない。

(5) 結論

したがつて、適正修理費は、高崎アジヤスターの見積(その金額は前記のとおり、部品価格計一五四万二四五〇円、工賃計一三四万一〇〇〇円)より部品価格において五五万一四五〇円、工賃において四八万三五〇〇円低額であるということになるから、修理部品価格は消費税別で九九万一〇〇〇円、工賃は消費税別で八五万七五〇〇円ということになるから、その合計は、一八四万八五〇〇円で、消費税込みでは一九〇万三九五五円となる。

(二) 代車料(請求額一六七万三七五〇円) 〇円

富士モータース作成の請求書(乙四)中には、代車料一万六七三万三七五〇円が計上されているが、被告本人尋問の結果によつても、代車が現実に被告側に提供され、被告側が使用したかについては判然としないところ、他に、そのことを証するに足りる証拠は存しない。

したがつて、これを認めるに足りない。

(三) 保管料(請求額三〇万九〇〇〇円) 〇円

被告らは、三〇日間修理に着手できなかつたため、右損害が生じたと主張する。

しかしながら、原告加入の保険会社から依頼を受けた町井アジヤスターが、平成二年九月一四日、富士モータースにおいて、被告車の損傷状況を調査したことは前認定のとおりである。そして、他に、原告側が、被告側に対し、被告車の修理を遅滞させる結果となる言動を行なつたことを証する証拠のない本件においては、修理着手が遅れたことと本件事故との結びつきを肯認することはできず、したがつて、それによつて生じたとされる保管料は、本件事故による相当損害とは認められないことになる。

(四) 評価損(請求額二八三万三〇〇〇円) 五七万九三〇〇円

甲一〇によれば、財団法人日本自動車査定協会は、事故減価は五七万九三〇〇円であるとする査定を行なつていることが認められるところ、この金額は、前記認定の損傷箇所及び内容、更には、相当修理費額(一九〇万三九五五円)や、一般に修理費の二、三割程度ともいわれる評価損の水準ともおおむね整合しており、採用できる。

一方、被告らは、本件事故は、七五〇万円で被告車を購入して九日目の事故であるが、事故修理後の査定価格は、査定証(乙五)にあるように四六六万七〇〇〇円と低下し、その差二八三万円三〇〇〇円相当の評価損が本件事故により生じたと主張するが、自動車については、事故などによる損傷がなくとも、登録がなされることに伴い、その評価の低下が生じること(いわゆる登録落ち)は広く知られているとおりであるし、乙五の作成者でもある財団法人日本自動車査定協会が、前記のよに事故減価を五七万九三〇〇円とする査定を行なつていることからして、被告らの主張は採用しない。

(以上、被告車の損害は、合計二四八万三二五五円である。)

三  過失割合

そこで、前記認定の原告の過失割合八割五分、被告の過失割合一割五分を、原告については被害者の過失、反訴原告については、被害者側の過失として勘酌し、以上に認定の損害額から減ずるとその残額は、原告について四万五一二〇円、反訴原告について二一一万〇七六六円(一円未満の端数切り捨て)となる。

四  弁護士費用(請求額、原告三万円、反訴原告五〇万円)

原告五〇〇〇円

反訴原告二〇万円

本件訴訟の経過及び審理経過からすれば、弁護士費用のうち、右部分を加害者である被告及び反訴被告(原告)の負担とするのが相当である。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 松井英隆)

別紙 <省略>

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